妖のおはなし:狼の眉毛(第十三話)

狼の眉毛 発祥地:三陸(青森、岩手、宮城)、新潟、秩父、広島

「狼の眉毛」という昔話は、「狼のまつ毛」という名で伝わっている地方もある様です。

四方を山で囲まれた村での話で四山にはそれぞれ狼が居ました。主人公は真人間(若しくは正直な貧乏人)で、欲深い嫁と暮らして居た(または独身、お爺さんと長者は対になり)毎度毎度、長者や村の人から鍋を受け取り洗って返していました。

ある日、村人が正直者の家を覗くと、鍋の底に着いた焦げを擦って食べている姿を見てしまい、村で噂になります。恥ずかしめを受けた正直者は絶望し

「俺みたいなダメな男は山で狼の餌になろう」と、山に向かい狼を待ちます。しかし東西南北の三方の山の狼達は食べようとせず、最後の山の狼が

「お前の様な真人間は狼は食わない。俺の眉毛をやるから家に帰れ、それをかざして周りを見てみろ」と言います。村に戻って狼の眉毛をかざして見ると、村人は全て狸、狐、といった獣の化け物達の姿でした。長者がその話を聞くと正直者に

「私も昔、貧乏でやはり狼に眉毛を貰った。そのおかげで騙されずに済み長者になれたのだ」と言い、正直者からその狼の眉毛を借り彼を見ると化け物にはなりません。

「やはりお前は真人間だ」そう告げると、長者は自分の娘を嫁に与えた、若しくは正直者のお爺さんを自分の所で一生面倒をみた・・・というお話です。

欲深い嫁の場合は、実は鶏の化け物だった嫁ですが、それでも自分は真人間と自信を持ち鶏の化け物と家に帰って行く、あるいは嫌気がさし、ひとり山に去っていくというお話です。

時には人を襲いますが他の害獣を追い払う狼、また山の獣達の毛皮や肉は当時の人間にとってとても重宝され、山の獣は全て山からの授かり物であり神聖視された獣達です。マタギの間で云われる「神殺し」と呼ばれ儀式も単に獣を銃殺するのとは意味が違います。その代表格が狼で狼は山犬とも犬神とも呼ばれ山岳信仰の古い山の神でありオオカミは大神であります。

「正直者が貧乏をして特殊技能はあるけれど、やはり結果生き方が下手」な所はいつの時代にも通じる昔話の教訓ですね。(妖ばなし文芸部/文責:杉本末男(chara)・イラスト:けんじゅー)

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